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豊かな森へ Part1 「森づくり」に生かす 地域学手法で里山活性化

 私は三年前、「木を植えた男」(ジャン・ジオノ作)という本に出会い、衝撃的な感動を覚えました。一人の貧しい羊飼いの男が、妻を失い息子まで失った中で、たった一人で何十年もの間、カシの実を植え続けた結果、荒野が緑豊かな森に変わり、そこに人々が移り住んで来るというストーリーです。
 私は当時、六十二歳でした。農業には定年がないので、この機会に農業の定年退職を宣言しました。そして定年後の人生の生き方として、私は「豊かな森づくり」を新たに選んだのです。そのころ「豊かな森」という本に出会いました。それはスウェーデンの森林基本法を分かりやすく解説したテキストでした。それには、こう書かれていました。
「森を持つということは国土の一部を持つという特権なのです。それには責任を伴います。森の持ち主は自分のためだけでなく、すべての人々のために『豊かな森』をつくり続けなければなりません。いついつまでも収入と楽しみを産み続け、動物にも植物にも素晴らしい環境を与え続けるような、そんな森を」
 今回の研修では、自然が持つ教育的な機能を環境教育という分野で生かした、多くの研究開発がなされていることを知りました。特に米国ではいろいろなソフトが開発されています。子どもたちは自然の中で過ごす時、昆虫に出会ったり、遊びの中で友情をはぐくむなど、いろんなことを体験を通じて習得しているのです。
 また、研修で分かりやすかったのは「地域学」の講義でした。ロキシーヒルのある土地は、登記簿を見ると明治初期、三十六人の共有地であったことが分かります。明治、大正、昭和前半には里山として薪取りや炭焼き、カヤの刈り取りなどが行われていたことが想像されます。地域学の手法を生かせば、身近にある里山を見直して地域全体が活性化できる取り組みができはしないか―。そんなことを思いました。
 県内各地の多くの共有林が、材価が低迷しているため荒廃の一途をたどっています。ロキシーヒルでは今、人工林を三割残し、あとの七割のエリアに山桜、ケヤキ、イチイガシ、ヤブツバキ、イチョウなどの苗木を植えています。山桜の咲くころには美しい古里の森ができると信じています。
 その森づくりには地域の子どもたちから住民の人たちも自由に参加できるようにし、今回の研修を生かしていきたいと思っています。

「宮崎日日新聞 平成12年11月26日 日曜日」より。

 
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