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豊かな森へ Part4 国民の森林としての管理経営

 私はスウェーデンの森林政策などを分かりやすく解説した『豊な森へ』という本を読み、スギ、ヒノキばかりの森づくりはいけないとの結論に達しました。森は単に生産材を供出するためだけの場ではなく、人々の心を癒したり、豊かな水資源を供給してくれたり、いろいろな動植物をはぐくむなど、その機能は多彩で、それがもたらしてくれる恵みは計り知れません。人間にとってはもちろん、動植物にとっても好ましい環境となるような森を作っていくことが今後一番大切ではないか、と考えています。
 では、動植物にとっても好ましい森とはどんな森でしょうか。それは一言でいえば、自然の循環がスムーズに行われるような森ということになるでしょう。そのためには、針葉樹だけの森づくりをやめて、照葉樹や落葉広葉樹といった雑木との混交林(複層林)にすることが必要です。
 私は常々、日本の林業政策には哲学がないと思い続けてきました。哲学を持つためには、もっと森の生態系とか機能・能力を知ることが大切です。特に人と自然との共生という視点からビジョンを組み立てていくべきです。
 その上に立って、私が提言したいのは、森の環境教育的な機能を活用したフィールドづくりです。子どもたちが自分の足で気軽に行けるようなフィールドをつくり、子どもたちにもっと森林の中で過ごせる機会を提供することが、バーチャルな遊びが幅を利かせている今の時代には何よりも必要です。
 国有林は「国民の森」として国民のために活用されることが望ましいとされていますが、現在は利用方法などに規制がありすぎる気がします。山があり、谷があり、そこに自分たちで広葉樹を植え、育て、その成長を見守ったり、そのフィールドでキャンプを楽しんだり、育った木で山小屋を作ったりできるような「国民の森」にするべきだと考えます。
 親と子が触れ合える森を作れば、親子の絆を深めることにもなります。私は国有林を真の「国民の森」とするため、その規制をもっと緩やかにして、親子が共にそこで時を過ごしながら、作業に汗を流し、思い出もつくれるようなフィールドにすることを強く提言します。なぜなら、自然は偉大な教師であり、子どもたちの五感を豊かに育ててくれると思うからです。
 では、具体的にどう推進していくかですが、私は実施・責任主体を森林ボランティア団体などのNPOや自治公民館などとすることを提案します。そして、林野庁など行政は資金面でそれらの活動を支援するような制度や事業を新たに整備したり、環境教育の指導者・インストラクターやコーディネーターを養成する講座をNPOとの共催で開くなど、側面的な支援をすることが必要になるでしょう。これから大事になるのは、森に親しめるような仕掛けをどうやってつくっていくか、それに尽きると考えます。
 次に地球温暖化防止対策の推進について申し上げます。
 この問題に入る前にまず強調しておきたいのは、戦後の拡大造林政策は間違いであったということです。スギやヒノキばかりを植える政策は、本来、森が持っている多面的な機能の多くを奪ってしまったからです。今、国有林について求められるのは間伐など人の手が入らずに荒廃してしまった人工林を早急に昔のような自然林に近い複層林にすることだと思います。
 今、山村では仕事がなくて、多くの人々は土木作業員などの仕事をしています。土木作業の現場のまわりの人工林は伐採されず、下草の育たない瓦礫の林になり、日々荒廃しているような状況にあります。この事実を認め、既存の土建業中心の公共事業を集中的に森作りへとシフトさせていくことが豊かな森作りへの一番の近道だろうと私は考えています。

(林野庁国有林野部経営企画課に国有林野の管理経営基本計画案への意見をしたものです)

 
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